動力伝達装置解説! ~マニュアルトランスミッション(MT)~
車を走らせるために不可欠なトランスミッション(変速機)も、時代とともに改良を重ねて走行性能や耐久性がより高まってきました。
そんなトランスミッションにも、MT・AT・CVTなどいろいろあり、それぞれ性能が大きく異なります。
仕組みや機構を知ることで、運転技術の向上、安全運転にもよい参考となります。
ここではMT(マニュアルトランスミッション)について解説していきますので、一度ご覧になってみてください。
マニュアルトランスミッションとは、手動(マニュアル)でギアチェンジを行う変速機(トランスミッション)のことをいいます。
通称、マニュアル車・MT車、単に「ミッション」などと呼ばれています。
シフトレバーとクラッチの操作により、運転者が任意のギヤーを選択し走行することができるもので、一般的には「4段階」~「6段階」の前進用ギア+「1段階」の後進用ギアで構成されています。また、一部の車には多いものでは「7段階」の前進用ギアが付いている車種もあります。
走行中にクラッチを踏むとエンジンからの動力を切ることが出来るため、トランスミッション内のギヤーの回転数を合わすことでギアチェンジすることを可能にしています。
また、ニュートラル状態(N)ではエンジンとクラッチ盤は繋がった状態ですが、トランスミッション内の変速ギアは動力シャフト(ギア)とは離れているため、動力は車輪へは移らず自動車が停止した状態となります。
現代の自動車のマニュアルトランスミッションではほとんどが「シンクロメッシュ機構」を採用しています。
これは「ギヤチェンジをスムースに行う為の装置」のことで、「1速ギアから3速ギアへ」など減速比の違うギヤでも回転数を同調させ、違和感なくシフトチェンジを可能にしてくれます。
これらのシンクロメッシュ装置が付いていない物を「ノンシンクロ型」と言い、ギアチェンジする場合はギアの回転数を自ら同調させる必要があるため、熟練した操作が必要になります(ダブルクラッチ等)。
しかし、実際は面倒なクラッチ操作は行わずにギヤチェンジが可能な為(シフトアップする時はアクセルを一旦戻した時にギヤチェンジすれば「スコッ!」という感じでシフトアップが可能)、素早いシフトチェジを行えることからレーシングカーやオートバイ等には現在でも使用されています。
上記の画像は5速MT(シフトポジション:N)を簡単に表現した図です。
トランスミッションにはエンジンの動力を直に受けるインプットシャフトとタイヤ側へ動力を伝達するアウトプットシャフト、インプットシャフトからアウトプットシャフトへ動力を伝達するカウンタシャフトがあります。
後退用ギア以外の前進1速~5速までのギアが3つのシャフトに取り付けられていて、それぞれのギアが常に噛み合っている状態にあります。
ぱっと見だと「こんな構図では車は走れない」と思ってしまいますが、インプット側とアウトプット側の2つのシャフトに取り付けられている前進1速~5速のギアはそれらのシャフトを素通りしていて、エンジンの動力が一切伝達されないようになっています。
だからシフト位置がニュートラル(N)の状態でクラッチを繋いでも、エンストすることなく車が停止した状態を保てるのです。
次の画像は5速MTで、2速の状態の図です。
中央のスリーブが左側に寄って、アウトプット側の2速のギアと噛み合っていますね。
この時、2速のギアとあわせてアウトプットシャフトにも同時に噛み合っており、ギアとシャフトが一体になるため、カウンタシャフトを介して伝達される動力がタイヤ側へ伝達されます。
この状態になって、初めて車を走らせることができます。
マニュアルトランスミッションは内部のギアやシャフトをオイルで潤滑していて、定期的に交換しなければならない車がほとんどですが、なかには交換を不要とする車種もあります。
マニュアルトランスミッションの潤滑に用いられるオイルはギアオイルと呼ばれ、ギアの歯面の滑りや歯面にかかる圧力で油膜が切れるのを防ぐため、硫黄やリン、亜鉛などからなる極圧添加剤と呼ばれる化合物が添加されており、特有の匂いがあります。
ただしギヤの種類の関係からディファレンシャル系統などに比べて金属部品にかかる負荷は一般的には厳しくなく、また極圧剤がシンクロメッシュ機構への悪影響を持つ場合があるため、ディファレンシャル系統よりも極圧性の低いオイルが指定される事が多いです。
しかしディファレンシャルと一体化したトランスアクスルにおいては、一定の極圧性が求められるためシンクロメッシュ機構に対する攻撃性とのバランスがとても重要になります。
一部の製造メーカーではギアオイルにこれらの添加物を使わず、最近までは通常のエンジンオイルを指定していましたが、現在では自社ブランドのギアオイルを指定していることがほとんどです。
マニュアルトランスミッションならではですが、トランスミッションをニュートラルにしないまま、クラッチを踏まずにエンジンを始動させようとして車両が突然走り出し事故に繋がる事例が少なからずあります。
こうした危険性を排除するために、日本国内では1999年7月以降より新車で販売されているMT車には、クラッチを踏まないとエンジンがかからない「クラッチスタートシステム」の採用が義務付けられています。
トヨタ86などMT仕様のスマートエントリー装着車の場合、プッシュスタートスイッチはAT車と同じものを使用していますが、ブレーキペダルではなくクラッチペダルを踏むことでスマート機能を使用することができます。
乗用車の場合、一般的なAT(オートマチックトランスミッション)車と比較すると次のような特徴があります。
①構造が単純で、許容トルクと比較して小型・軽量にできる
②動力伝達が歯車(ギア)によって行われるため、CVTと比べて伝達効率が高い
③定常運転時は滑りのない摩擦クラッチと組み合わされるため、ロックアップ機構を持たないトルクコンバータ式ATより伝達効率が高い
④誤操作による暴走を起こしにくい
⑤押しがけや引きがけによるエンジンの始動ができる
マニュアルトランスミッションの仕組みをおわかり頂けましたでしょうか?
技術の進歩で効率がよく運転の楽しめるトランスミッションが続々と登場してきています。
トランスミッションの方式は車選びの際に重要なポイントとなります。
ご自身のカーライフのあり方や、好みに応じて最適なものを選び、毎日の運転を楽しく、快適に、安全に行っていきましょう。
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