動力伝達装置解説! ~オートマチックトランスミッション(AT)~
車を走らせるために不可欠なトランスミッション(変速機)も、時代とともに改良を重ねて走行性能や耐久性がより高まってきました。
最近では、変速の手間を省くことができるAT(オートマチックトランスミッション)が主流になってきています。
そんなオートマチックトランスミッションでも、仕組みや機構を知ることで、運転技術の向上、安全運転にもより大きくアシストしてくれます。
ここではAT(オートマチックトランスミッション)について解説していきますので、一度ご覧になってみてください。
オートマチックトランスミッションとは、機械的な意味においては、ギアチェンジを自動で行う機構の変速機のことをいいます。
通称、略して「オートマチック」、「オートマ」、「AT」などと呼ばれます。
自動車免許においてのオートマチック車は、「クラッチのない2ペダル式」の車のこととなります。
オートマチックトランスミッションにも機構や作動方式によって名称が混同することがあり、区別のためフルオートマチックトランスミッション(フルAT)と呼ばれることもあります。
AT車のトランスミッションは様々な機構方式に分類されます。
・トルクコンバータ式
・湿式多板クラッチ式
・遊星歯車機構(プラネタリ・ギア・ユニット)
・並行軸歯車式
・CVT(無段変速機構)
・AMT(セミオートマチックトランスミッション)
などなど…
この記事ではフルATという括りで簡単に解説するので、多段変速のATに採用されることが多い「トルクコンバータ式」・「湿式多板クラッチ式」・「遊星歯車機構」についてご紹介します。
・トルクコンバータ式
トルクコンバータとは、流体式クラッチのことで、マニュアル車のクラッチに相当する部分が、封入されたオイル(オートマチックフルード・ATF)になっているクラッチ機構です。
1980年代~90年前半頃まではマニュアル車が主流で、オートマ車(AT車)のことを「トルコン」と多くの人が呼んでいました。
このトルコンとは、トルクコンバータの略です。
トルクコンバータは、オイルの流れを利用したクラッチの機構で、マニュアル車での半クラッチは、オイルの流動によって発生する運動エネルギーを利用した仕組みです。
作動の原理をわかりやすく解説しているのが上記の画像です。
2台の扇風機を向かい合わせにして、片側だけ電源を入れて送風させると、向かい側に設置した扇風機はその風を受けてゆっくり回転し始めると思います。
送風している扇風機をエンジンとすると、向かい側にある扇風機はトランスミッションやタイヤといったドライブトレーンに動力を伝達させるものになります。
ポンプインペラ(エンジン側)の回転によってATFを流動させ、流動により発生するエネルギーはステータを介してタービンランナ(ミッション側)に伝達・回転させています。
中央にあるステータは、ATFの流動をコントロールし、トルクを増幅させる働きがあります。
この機構があるためアクセルを踏まなくとも、車両がゆっくり前進していきます。
これをクリープ走行といいますが、この現象はトルクコンバータを用いたAT車特有の現象です。
車のエンジンは、アクセル操作がない場合でも一定の回転数で回り続けています。トルクコンバータはこの回転を常に駆動輪に伝えているため、ブレーキを離すと駆動力が発生します。
MTであれば、ドライバーがクラッチを切っている間は駆動力が伝わることはありませんが、トルクコンバータはエンジンの回転を常時駆動輪に伝えているため、クリープ現象が発生します。
トルクコンバータのトルク増幅機能を生かせば、通常のマニュアルトランスミッションが6速だとしても、それを3速のATでカバーすることが可能です。
しかしトルクコンバータが機能する時は回転数が落ちるので、アクセルを踏んでもエンジンの回転数は上がるけど加速しない、という滑り感が出てしまいます。
フィーリングがとても良くないですが、同時に燃費や性能も悪くなってしまうのです。
そこでトルクコンバータを機械的に直結してしまって、油圧を介さずにダイレクトにエンジンの力をトランスミッションへ伝えるための「ロックアップ機構」があります。
具体的にはトルクコンバータ内部に専用のクラッチを装着し、入力側と出力側のカップリングを固定することを可能とし、それを電子制御によって作動させるというシンプルな機構です。
トルクコンバータの機能が抹殺されるのでトルクの増幅はありませんが、その代わりにエンジンのフィーリングがダイレクトに伝わります。
・湿式多板クラッチ式
トルクコンバータによって発生する動力を、トランスミッション内部のギアに伝達させるために多数のクラッチ板を用いた方式です。
このクラッチには湿式と乾式とあり、トランスミッション内に充填されたATFに浸っているかどうかの違いです。
上記の画像を見ると、何枚もあるクラッチ板の内外周それぞれ交互に突起物のようなものがあります。
この突起物を持つクラッチをトランスミッション内の各変速機構に取り付けることで、油圧によって複数のクラッチを締結させて1速・2速とシフトチェンジをしています。
その他にもロックアップ機構にも採用されていることもあります。
ちなみにオートマチックトランスミッションのギアチェンジは、主に次の2つの方法でギアチェンジをする仕組みとなっています。
【油圧式】
さまざまな油圧を感知して、シフトアップのタイミングを判断する方法。
【電子制御式】
マイクロコンピューターがセンサーからの情報をもとに制御する方法。
現在は、電子制御式が主流となっています。
・遊星歯車機構(プラネタリ・ギア・ユニット)
中央に位置する太陽歯車(サンギア)、外側面に位置する内歯車(インターナルギア)、その間に位置する遊星歯車(プラネタリギア)とそれを支持する遊星キャリア(プラネタリキャリア)の4つの部品で構成される変速機構で、エンジンから伝達される動力を受けるギア(入力)とタイヤ側へ伝達する動力(出力)が働くギアを3つのギアに振り分けることで変速しています。
この遊星歯車機構には以下のような特徴があります。
・少ない段数で大きな減速比を得られる
・大きなトルクを伝達できる
・入力軸と出力軸を同軸上に配置できる
・多数の遊星歯車に負荷を分散できるので、磨耗や歯車の欠損が比較的少ない
・構造上、機構が複雑でギア比の計算が難しい
参考としてgif画像を添付していますが、入力ギアをサンギアとし、出力をインターナルギアとすると逆回転します。
入力ギアと出力ギアを切り替えることで様々な変速比(ギア比)と回転方向(前進・後退)を実現することが可能で、遊星歯車1ユニットあたりおよそ6パターンの変速が可能になります。
もちろん1ユニットだけでは変速領域が限定されるので、3~4ユニットもしくはそれ以上を連結することで5速以上の変速領域を実現でき、中には10速ATを実装可能にした車両もあります。
以上が、多段変速機構を有するATの代表的な機構です。
もちろんこれだけではありませんが、現代でもこの方式が採用される車種はとても多いので紹介させていただきました。
この記事を読んで、より一層車に興味を持っていただけたらいいなと思います。
以下の記事も読んでいただくと、より分かりやすいかと思いますので一度読んでみてください。