馴染みの少ないDCT(デュアルクラッチトランスミッション) ~構造と解説~
有段変速ATとCVTが主流になっているので、知っている方は少ないと思います。
今回投稿する記事はクラッチを2つもつDCT(デュアルクラッチトランスミッション)についてです。
構造と仕組みはもちろん、メリットとデメリット、他のトランスミッションと比較してどこが優れているのかを簡潔にご紹介します。
是非ご覧ください。
DCTとは「デュアルクラッチトランスミッション」の略です。
ATの変速機構のひとつで、その名の通り2つのクラッチを持っている機構を言います。
CVTの採用が多い日本車ではあまり聞きなれない名称かも知れませんが、ATの多い欧州ではコンパクトカーをはじめ積極的に採用されています。
あらかじめ次の段のギアを用意しておけるので、従来のATに比べて素早い変速が可能となっています。
2つあるクラッチのうち片方が奇数段(1・3・5・…)を、もう片方が偶数段(2・4・6・…)を担当し、それらを交互に繋ぎ変えながら変速します。
変速時には次のギアが待機状態にあり、クラッチ操作および変速操作はコンピュータ制御により自動的に行われるため、操作は通常のATと同じです。
しかしクラッチによる動力を断続する機構を持ちつつも、コンピュータによって自動制御されるのでセミオートマチックトランスミッション(セミAT)とも呼ばれます。
同じセミAT方式でAMT(オートメイテッドトランスミッション)というものがありますが、構造が少し異なります。
以下の記事も参考にしてみてください。
上記の画像は前進6段DCT(リバースを除く)の簡単な構図になります。
この画像を例に解説していきます。
奇数段・偶数段は、それぞれ「1-3-5」速と、「2-4-6」速と分担しています。
トランスミッション内部中央に組付けられた2組の入力側ドライブギア(駆動側歯車・画像中央の青と灰の軸)とクラッチは同軸上に配置され、片方のみが動力を伝えるようになっています。
停止状態から走り出す場合、あらかじめ1速がコンピュータによって選択され、シンクロ動作(変速動作)を終え、奇数段軸に嵌合して待機している状態(クラッチを切ったまま1速に入っている状態)になります。
発進のためアクセルを踏む(スロットルを開く)と、奇数段軸側のクラッチ(青)を半クラッチ状態もしくはトルクコンバータを介して締結し、車軸に動力を伝達して前進します。
その間、もう一方の偶数段の2速ギアはシンクロ動作を終え、軸に嵌め合わされます(1速と同様)。
偶数段軸(灰軸)はエンジンと接続されていないので出力軸側から駆動され、カウンタシャフト(画像上下の青軸と灰軸)と入力軸までが空回りをしながら待機しています。
車が2速で走行する領域に入った時、奇数段軸のクラッチを開放し偶数段軸のクラッチを接合することで短い時間で変速します。
また2速への変速が完了すると同時に、奇数段ギアは次の変速に備えて3速ギアのシンクロ動作(1速と同様)を終えて再び待機状態を迎えます。
以後の変速も同様に行われることで、2つの変速系統を専用のクラッチで交互に切り替えて変速するシステムになります。
運転状況によりギアを飛ばしてシフトアップやシフトダウンする機種もありますが、奇数段と偶数段を交互に使うので、ほとんどの機種では一段ずつ上下します。
DCTは一段あたりの変速時間そのものが短いため、複数段の変速であっても瞬時に行われます。
また急減速時や飛び越しシフトダウン時はクラッチの回転数とエンジンの回転数を合わせるスロットル動作(ブリッピング)が自動的に行われます。
2系統の独立したクラッチディスクの配置方法は大別すると以下の2種類です。
同心円状に内側と外側に配置する構造は特許になっています。
特許を持つメーカーが組み立てメーカーにクラッチ機構を納入してDCTを生産します。
この方式は外側のクラッチの回転モーメントだけが大きいので制御が大変難しくなります。
もうひとつは筒状の部品で1つ目のクラッチを外側から回避し、二つ目のクラッチ入力面を回転させ、同じ直径のクラッチを同軸線上に2組、並列に配置する方法(入力面は直列に配置され、締結機能は並列)になります。
同じ形状のクラッチを二組使えるので動作が安定しますが、軸線方向の変速機外寸が長くなってしまいます。
例外的に、クランクシャフト末端に配置される2組のクラッチを入力直後に並行する2つのカウンタシャフトに振り分け、それぞれのカウンタシャフトの入力端にクラッチを設けてカウンタシャフトと出力軸の間で変速機を構成し、クラッチが同軸上に並ばない配置も考案されています。
しかし外寸が大きくなるため自動車に使われていません。
歯車は従来のMTと同じ構成のシンクロメッシュ機構を持つ常時噛合式で、シフトフォークを油圧アクチュエータまたは電動モーターで作動させて変速します。
DCTの変速機構は他のATよりもかなり複雑なため、シンクロメッシュ機構を入力軸とカウンタシャフトの双方に持つものが多いです。
クラッチディスクは滑りを制御するため主に多板式を採用することがほとんどで、湿式多板と乾式多板があります。
湿式多板クラッチは基本的に無交換で長寿命とされていますが、渋滞など走行条件によっては短時間で摩耗する場合がみられます。
しかしその多くは摩耗によるストロークやクリアランスの増加は自動調整されるか、あるいは制御装置に再学習機能を持たせています。
湿式多板クラッチは大トルクに対応しながら滑りを制御しやすいため、大きな車種に用いられます。
乾式多板クラッチは対応トルクと滑り時間が制限されますが、構造がシンプルで部品数や油量が湿式に比べ少ないため運用コストに優れています。
また乾式の伝達効率は湿式に比べ高いため、省燃費性が求められる小型車種に向いています。
クラッチ操作は基本的に油圧を用いていて初期の油圧ポンプは機械式でしたが、後に電動式油圧ポンプも使用されるようになりました。
その他クラッチ操作を電動モーターで行い、油圧を必要としない二輪車用の電動化DCTも開発されています。
2つのクラッチを切り替える時間は0.05秒以下と短く、エンジン回転数を合わせるために最短でも0.2秒ほどクラッチを滑らせています。
シフトアップ時はエンジンの惰性を部分的に駆動軸に伝えながら回転を落とし、完全に締結した後に燃料噴射を再開します。
クラッチへの負担の増加と引き替えにエンジンの惰性を有効利用して変速中の大部分も緩やかに加速させています。
しかし急減速時のシフトダウンはギアの噛み合いは終わっているのにクラッチ部の回転合わせのためにブリッピングが必要になるため、時間短縮や燃費に効果はありません。
メリット
・MTと同等の高い伝達効率を実現している
・素早い変速操作に対するタイムラグが短く、駆動力の途切れる時間を最小限にできて駆動効率が高いため、燃費が良く加速が速い
・MT以上の多段化が可能
・変速差が小さいためショックが小さく、低燃費を実現できる
・AT限定免許での運転が可能
・短い変速時間によって、巡航から加速に移る際のターボラグを抑制できる
・減速中のエンジンブレーキの効きが一定で、アクセルペダルによる車速管理が比較的簡単にできる
・シフトアップ時はクラッチの滑りを含めて効率的で変速中も緩加速は続き、シフトショックも少ない
・構成部品の多くがMTの既存部品と同じで信頼性が期待でき、生産ラインを流用できる
・高出力の大型車にも使用できる
・クラッチ操作が自動制御されるので、クラッチの長寿命が期待できる
デメリット
・MTと比べてクラッチ、フライホイール 、ダンパ機構、変速機構が重複し、大きく重くなる
・MTと比べてクラッチの滑りとシフトフォークの操作に使用する油圧をポンプによって発生させるため、駆動損失も増加する
・トルコンレスではエンジン回転数と合わせるためクラッチを滑らせる時間が長く摩擦損失が発生する
・トルコンレスでは僅かな変速ショックが発生する
・トルコンレスでは発進がスムーズではなく、クラッチフェース摩耗や発熱からストロークが変わりショックやジャダー、作動音が出る場合がある
・シフトアップ時と比べてシフトダウン時はその都度シンクロ動作とブリッピングが必要になるため、わずかに変速の遅れが発生する
・急減速時のシフトダウンはエンジンの空ぶかしが必要になる
・遊星歯車式や摩擦式CVTの総合効率に達していない
・減速時にも断続的にシフトダウンが必要なためオルタネータで回生するエコカーではCVTより回生が中断して不利
・出力軸側のハイブリッド用電動機で回生を優先すると大きな飛越しシフトダウンのためブリッピングが必要、または再加速時にタイムラグが大きい
・クラッチの構造が特許で押さえられているために基幹部品は1社独占であり、製造コストが割高になる
以上が、DCTの解説になります。
DCTはスポーツカーへの搭載がメインになっていて、一般的な車ではあまり見ることがないかもしれません。
伝達系統を2つに分けることで変速ロスを格段に縮小できる一方、構成部品による大型化などの欠点もあるようですが、これから改善されていくのではないかと思います。
もしディーラーなどの自動車販売会社でDCT方式の車が展示されていた場合は是非とも試乗してみてください。
きっと今までにない運転の楽しさを実感できると思います。
以下の記事もあわせて読んでいただくと、より分かりやすいかと思いますので一度読んでみてください。