オフロード車の魅力その2! ~デフロックってなに?~
以前に投稿したLSD(リミテッドスリップディファレンシャル)と同じように、険しい山道を走破する車にはデフロックと呼ばれる装置を搭載されていることがあります。
どちらも悪路走行を考えて開発されたものですが、その構造は大きく異なります。
デフロックを搭載する利点は何なのか、一般道での走行はどうなのか、そもそも内部はどんな構造になっているのか…
構造や動作、特徴などをわかりやすく解説していきます。
デフロックとは、デファレンシャルロックの略で、左右のタイヤの回転差を固定する機構で、差動固定装置やロッキングディファレンシャルといいます。
普通の車には、デフにロック機構を持たないオープンデフ(差動機構)が搭載されていて、左右輪の駆動力の配分を1から100の比率で配分しています。
しかしオープンデフはその構造上、雪上や沼地などで駆動輪の片方のタイヤが空転してしまうと駆動力の配分が0:100となり、もう片方のタイヤには駆動力が伝わらなくなり動けなくなってしまう状況が発生してしまいます。
そんな状況でもデフロックは、タイヤの空転を防ぐためにディファレンシャル内部の差動機構を固定し、駆動力の配分を50:50に固定することで常に左右輪に駆動力を伝えることで、悪路脱出の可能性を上げてくれる優れた機構です。
デフロックは、柔らかい土の上を走る軽トラックや、悪路の走破性が求められるオフロードカーになくてはならない機構です。
雪道でスタックしている車をよく見ると、片側のタイヤは盛大に空回りしているのに、反対側のタイヤはほとんど動いていないことが多いです。
この現象はデフの構造のせいなのです。
もしデフロック機構が着いている車ならば、デフを動作させずに左右のタイヤを直結させることで、滑っていない方のグリップを使って脱出することが可能になるのです。
しかしデフロックが着いていたとしても、左右のタイヤがどちらも空転する状況では、さすがのデフロックでも歯が立たないということをご理解ください。
優れた悪路走破性を発揮するデフロックですが、常に動作させることはできません。
デフロックの状態で走行を続けると、内輪差を吸収できずに、カーブを曲がるたびにタイヤはスリップし、どんどんすり減っていきます。
ディファレンシャル機構はもちろんドライブシャフトにも負担がかかるため、デフロック中はステアリングを切らないようにと注意書きされている車種もあります。
そのため、スイッチを設けて必要な時だけ動作させる仕組みになっているのが一般的です。
スイッチをオンにすると、電磁クラッチやロック機構が動作し、デフロック状態になります。動作させる際には、車を停止状態させた状態で操作を行ってください。
ロック式のデフロックの場合、切り替わりづらい場合には前後に徐行し、再度スイッチをオンにしてみてください。
もしくはスイッチをオンにした後、ほんの少し車を前後に動かしてやるとデフロックが作動します。
このデフロックは前後の各車軸とセンターデフ(トランスファー)の全てに搭載することができます。
そのため、フルタイム4WD車は前後およびセンターデフの3箇所全てに差動装置を持つことになります。
パートタイム4WDでは、センターデフでの4WD切り換え操作そのものがデフロックと同様の効果を生む場合もありますが、特殊なオフロード走行に用いられる車両の中には前後の各車軸とセンターデフのいずれか、あるいは全てに対してデフロックを装備する場合があります。
フルタイム4WDでも、ラリーなど使用用途によりセンターデフなどにデフロックが追加される場合もあります。
4WD車の構造については以下の記事をご覧ください。
このデフロックにも、作動方法によって3種類あります。
①自動式デフロック
②選択式デフロック
③スプール・デフ(常時固定)
これらが走行中にもたらす効果は同じですが、作動に関しては異なってきます。
この3種類を簡単に解説していきます。
①自動式デフロック
ドライバーによる直接的な作動指令なしに、自動的に固定と解除を行うデフロックです。
自動式デフロックは設計上、直進中は常時固定とされるため各車輪のトラクション状態に関係なく常時エンジン回転数が均等に車輪に伝達され、コーナリング時など各車輪の回転数を変化させる必要がある場合にのみ固定が解除されます。
その場合であっても、自動式デフロックはその制御下にある車輪のいずれかが、デフキャリアまたは車軸全体の回転速度よりも遅く回転することはシステムとして許容しておらず、速く回転する場合のみ回転差が発生することを許容する設計になっています。
左右の車輪のトラクションが等しい条件下でコーナリングを行う場合にはオープンデフと同程度の差動を行い、それ以外の条件下ではトラクションの状態に従って自動的に両方のアクスルシャフトを直結状態としています。
いずれのものも外部に制御装置の類は必要なく、車軸の回転より車輪の速度が速くなった場合のみに遠心力でデフロックユニットのインターロッキング・プレート(ドグクラッチ)の噛み合いが外れてフリーとなり、車軸の回転と車輪の速度が同一または車輪の速度が遅くなると、遠心力で離れていたプレートはスプリングで押し戻されて再び噛み合い、直結状態となる比較的簡単な仕組みです。
メリット
・デフロックの作動が自動的に行われる
デメリット
・ 運転中の車体の挙動とタイヤの摩耗に大きな影響を与える
②選択式デフロック
ドライバーの操作に応じてデフロックの作動・解除を任意に行うことができるものです。
この形式には様々な方法で操作するものが多く、代表的なシステムは以下の通りです。
・圧縮空気(空圧)
・エンジンの吸気圧(バキューム圧、負圧)
・電気を用いるケーブル駆動
メリット
・走行場面に応じて任意での切り替えができるため、操縦性に優れる
デメリット
・構造が複雑化し、部品点数が増加する
③スプール・デフ(常時固定)
オープンデフ内部のスパイダーギアはデフロックを実現するために溶接固定される場合があります。
このような改造は、英語ではスプール・デフやスプール・アクスル、もしくはソリッド・デフと呼ばれ、日本では単純に溶接デフロックなどとも呼ばれています。
このような改造はデフロックやLSDが設定されていない車種で差動固定を行いたい場合や、ドラッグレースなどの機械式LSDでも強度が不足するほどの重負荷が掛かる用途、あるいは前輪駆動ベースの4WD車のフロントドライブシャフトを抜き取った上でセンターデフを固定し、FR車として利用する場合などに限定的に用いられています。
ただし、このような手法は溶接によって母材の金属組成が変化し、重負荷下で溶接箇所の破断などが発生するリスクが伴うため、本来は推奨はされていない方法でもあります。
必ずしも溶接を利用するばかりではなく、オープンデフのスパイダーギアを除去して左右車軸を直結するソリッドブッシュに置き換える事で同様の効果が得られるので、ラジコンカーのボール式差動装置の差動固定にもこうした手法が多く用いられています。
車においても強度面に対する信頼性が足るスプール・デフを構成する上で望ましい手法とされていて、ソリッドブッシュとしてミニ・スプールと呼ばれる部品が組み込まれている場合があります。
これはオープンデフのケースをそのまま使用して内部部品のみを置き換えるというものです。
また、オープンデフそのものを丸ごと単一の加工部品に置き換える場合もあり、このような部品はフル・スプールと呼ばれています。フル・スプールは差動を固定する方法としては最も強度の高い手法ですが、逆にトルクを配分する機能を全く持たないため、駆動系統全体に大きな応力が常に掛かり続けることにも繋がります。
メリット
・競技車両などの過酷な走行に耐えられる
デメリット
・関連するドライブトレーンにかなりの負担がかかる
以上が、デフロックに関する記事です。
デフロックは、一秒でも早く悪路を抜け出すオフロード競技や、出荷の遅延が許されない農家の方々には必要不可欠な機構ですが、普段のカーライフには馴染みの薄い存在です。
しかし、馴染みが薄くてもまったく関係がないわけではありません。
デファレンシャルギアの特性を知れば、スタックした際には空転しているタイヤにブレーキをかけることで、疑似的なデフロック状態を作り出せることが分かると思います。
これはブレーキデフロックといい、ラリーやオフロード競技で昔から使われているテクニックです。
電子制御技術が向上した現代では、4輪独立ブレーキによってディファレンシャル機構内部の差動回転をコントロールし、特別な操作をせずとも、自動でトラクション確保や姿勢制御をおこなっている車もあります。
私たちが気づかないところで、ブレーキとデフが連携して安全運転の手助けをしてくれているのです。