安全運転の必須項目! ~ホイールアライメント~
公道を走るすべての車にはホイールアライメントというものがあります。
簡単に解説すると、車体に対してホイールがどのような角度で取り付けられているか、という部分を数値化したものです。
普段耳にすることはほとんどないので、どのようにして測定するのか、基準を外れるとどういった不具合が出てくるのか、わからない方がほとんどだと思います。
ここでは、測定方法や不具合などを解説していきます。
車を走行させるのに必要な「走る・曲がる・止まる」の三大要素にはホイールアライメントが大きく関わっていて、このバランスが崩れると走行上のトラブルの原因になります。
ホイールアライメントは、ハンドル操作を滑らかにする、直進時や旋回時の走行を安定させる、タイヤの偏磨耗を軽減する、といった目的で、主に特定の積載量や走行速度において良好な状態となるように設定・調整されます。
また、その設定を変更したり調整し直したりすることを、アライメント調整と呼ばれています。
ちなみに、車のアライメントには「ボディーアライメント」というものもあります。
自動車の車体構造(内板骨格)と外装パネル(外板)の歪み具合やその修正のことを指し、メーカーの寸法図通りに車の骨格や外装を調整・復元することです。
アライメントの調整が必要な状況は、例えば車高を変えた、足回りを調整・交換した時などがあります。
他には縁石に足回りをぶつけて車に衝撃が加わった後や長年乗っている車も、アライメントの調整が必要になる可能性があります。
車高を変えたなどのことをしたわけではないけれど、車の調子が変だと思った時は、アライメント調整の必要があるかもしれません。
特に以下のような症状が車にあれば、ホイールアライメントのバランスが崩れてしまっていると考えられます。
・車がまっすぐ走らない
・交差点などでの旋回半径が左右で異なる(スムーズに曲がれない)
・走行中にハンドルが振動する
・ハンドルのセンター位置がずれている
・タイヤが片減り、偏摩耗している
普段乗っていると気付きにくいかもしれませんが、運転しているとちょっとした異変に気付くことも少なからずあるでしょう。
そんな時はアライメント調整を検討しましょう。
上記の画像は今季発売された220系クラウンのサスペンションモデルです。
安定した走行と操作性を求めるべく、前後ともにマルチリンク方式を採用しています。
従来の車では、ホイールアライメントといえばフロント・ホイールアライメントといったように、前輪(フロントホイール)でかじ取りをする理由からホイールアライメントは前輪にだけ存在するものと一般的に考えられていました。
最近では前後ともにサスペンション構造もかなり複雑になり、前輪だけのホイールアライメントだけを考えたホイールアライメント・サービスは成り立たなくなってきたため、全車輪的に判断する「トータル・ホイールアライメント」という考え方に変わってきています。
アライメントには以下の代表的な4つの要素があります。
・トー角(トーイン・トーアウト)
・キャスター角
・キングピン角
詳しい説明は次の項目で行います。
このアライメントの4つの要素は、それぞれの調整される角度はとても小さいですが、角度の組み合わせによって走行性能が大きく変わってきます。
車両を正面から見たとき、タイヤ上部が外側に傾く(逆ハの字)または内側に傾く(ハの字)角度をキャンバー角といいます。
外側に傾く事をポジティブキャンバー(+キャンバー)と言い、内側に傾く事をネガティブキャンバー(-キャンバー)といいます。
現代ではタイヤの接地面を常に活かし切ることを狙ってキャンバーをほとんど付けないのが主流ですが、旋回時には遠心力による車体のロール(傾き)に伴い、タイヤの外側から磨耗して行く傾向があります。
キャンバーの設定はサスペンションの挙動と組み合わせて考えられることが多いです。
パワーステアリング機構が一般的ではなかった時代には、ポジティブ(プラス)キャンバーにし、スクラブ半径(またはキングピン・オフセット)を小さくすることで操舵力を低減することがよく行われていました。
最近では旋回性能を高める目的ではネガティブ(マイナス)キャンバーに設定することが多いです。
ネガティブ(マイナス)キャンバーを付けると直進時はタイヤの内側が強く路面に接地するため、タイヤの内側から磨耗していく傾向にあります。
キャンバー角のおもな役割は以下の通りです。
・キャンバーを持たせることで、キングピンオフセット値を小さくして、ステアリングの操作力を軽減する
・旋回時に旋回方向に対して外側のタイヤに大きな横荷重と縦荷重が加わることでキャンバーはポジティブ(プラス)側に引き込まれてしまうため、タイヤと路面との接地性が低くなるのを改善するため、あらかじめネガティブ(マイナス)側にキャンバーを設定することで、旋回性能の向上が図られている
・極端なキャンバー角設定(鬼キャンなど)は偏摩耗や直進時のグリップ低下を招くため、かえって危険である
DIYで簡易的に測定することも可能です。
簡単な方法として挙げられるのは、スマホアプリの傾斜計を用いて測定するやり方です。
無料のアプリも多くでているので、それらを利用するのも手のひとつかもしれませんが、正確に測るという点においては注意する必要がありそうです。
もしくは「マグネットキャンバーゲージ」という商品も販売されています。
こちらは簡単に使用してキャンバー角を測定することができます。
価格は、おおよそ15000円前後といったところでしょうか。
あるいは重りを付けた糸を垂らし、その計測値をもとに三角関数にて算出する方法も有名です。
キャンバー角は、約1度以下の角度であれば大きな偏磨耗はしにくいということなので、ひとつの基準となると思います。
キャスター角
車両を側面(横側)から見たときの前輪のキングピン軸(操向軸)の傾きをキャスター角と言い、「操舵輪にのみ存在する」角度です。
横側から前輪を見ると、通常キングピン軸は上部がやや後方へ傾いているのがわかると思います。
普通の車の(操舵機構のない)後輪にはもちろんキャスター角は存在しません。
ストラットの角度やサスペンションの動作角をキャスター角と混同した解説が多く存在していて、『リアのキャスター角』などという言葉も耳にしますが、これは間違いです。
車両側方から見たキングピン軸地上交接点とタイヤの接地中心の距離をキャスタートレールと呼びます。
キャスター角のおもな役割は以下の通りです。
・キャスタートレールによる直進性の保持
・旋回時になると車輪下部(地面との接点)が内側へと引っ張られ、直進しようとする復元力が発生する
・旋回時に必要な対地キャンバーの発生
・旋回中は内輪をポジティブ方向へ、外輪はネガティブ方向への変化を促し、旋回性能を向上させる
キャスター角は特に直進性を保つために設定されていますが、その反面キャスター角が過小・過大・左右不等になると車輪の復元力に問題が発生し、ステアリングの戻りが悪くなったりします。
また、旋回時のステアリングホイールを保持するのに大きな力が必要になったり、ステアリング流れが発生する、などの現象もあらわれてしまいます。
キャスター角がボディー側の取付部と関係している場合がほとんどで、基本的に調整することはできません。
どうしても調整したい場合にはアフターパーツを取り付けることで、わずかではありますが調整することが可能です。
こうしたアフターパーツは製品に対する強度などの問題もあって使用する方はあまり多くないですが、各メーカーで耐久テストを積み重ねたうえで製品化しているのでそこまで問題はないかと思います。
トー角
車両を上から見たとき、進行方向に対しタイヤ前端を内側または外側に向ける角度をトーといい、前輪のトー=フロントトー、後輪のトー=リアトーとなります。
直進安定性などに大きく関係してきます。
進行方向に対し前端を内側に向ける角度を「トーイン」、外側に向ける角度を「トーアウト」といいます。
トーインは+で表し、トーアウトは-で表記しています。
通常は車両の幾何学的中心線を基準に考えますが、左右を総合したトータルトーも意味があります。
トーは角度を表していますが、日本ではこれまで現場で容易に測定できることなどから車輪の前端と後端の左右方向のズレをmm(ミリメートル)で表してきました。
ただし、車輪の直径に影響され、ズレの値が同じでもタイヤの直径が大きくなるほどトーの角度は小さくなります。
現在、諸外国では一般的に角度で表しますが、日本においても海外製の測定器が流通するにしたがい、角度表示が増えてきています。
トー角のおもな役割は以下の通りです。
・前輪にはポジティブ(プラス)スクラブがつけられている事が多く、路面との摩擦抵抗により常に前開きになるようにモーメントが働いてしまうため、あらかじめトウインを設定し、走行中にトウアウトになることを防いでいる
・サスペンションに内側の張力を発生させ、車両の安定性を高める
・トウインをつけることで内側偏磨耗を緩和することが出来る
トーアウトは、ハンドル操作に機敏な反応を示す反面、ドライバーの疲労を引き起こしてしまいます。
市販車ではトーゼロからややトーインが主流であり、トーアウトは稀です。
競技車両などでは意図的にトーアウトにすることもあり、他の要素と組み合わせることで様々な効果を生み出します。
トーはキャンバー角やキャスター角以上に、影響が大きいと言われています。
車検でアライメントの要素として唯一の点検項目になっている「サイドスリップ」は、フロントのトーにもっとも近い要素です。
トー角はホイールアライメントの要素の中で最も調整しやすく、任意で設定値を変更することが容易です。
多くの車種ではタイロッド部を締める・緩めるなどして全長を変えてやることで、左右でのトーを調整することができます。
その際にはサイドスリップテスターを用意しておくと、比較的楽に作業することができます。
【正規輸入代理店】Gunson TRAKRITE サイドスリップテスター ホイルアライメントゲージ(日本語説明書つき)
キングピン角
車両を正面から見たときのキングピン軸の傾きをキングピン角といいます。
キングピン軸とは、操舵の回転軸のことです。
また、タイヤ接地中心とキングピン軸の地上交接点とのズレをスクラブ半径というが、特に左右方向の距離について日本ではキングピンオフセットともいいます。
ストラット式サスペンションにおいてはストラット中心軸とキングピン軸を混同しやすいですが、この二つは別のものですので気を付けてください。
こちらの角度は車両製作段階で決定されているものが多く、その場合調整することはできません。
これら以外にも、車の走行に関わる要素があります。
ターニングラジアス(切れ角)
ターニングラジアス(ターニングアングル)は、旋回時における左右の前輪の切れ角度を表します。
ターニングラジアスが狂うと、直進時のホイールアライメントが正しくても、タイヤの磨耗を早めることになり、旋回時の走行や安定性にも大きな影響を与えます。
車輛の運動上、常に適切な切れ角を持たせることが望ましいとされていて、ステアリングリンケージでのナックルアームの曲がりや、タイロッドの左右長さの不等などが発生すると、必ずタイヤの異常磨耗(トーによる磨耗)につながってしまいます。
理論的には、速度がごく低速でそれぞれの車輪がその向いている方向に動いている場合は、ほぼ理想的な方向に左右の前輪を向かせています。
速度が上がるとそれぞれの車輪でコーナリングフォースを発生させるのと同時にスリップアングルが発生し、旋回の中心が後軸の延長線上から前方に移動するので前提が変化します。
スラストアングル(スラスト角)
スラスト角とは、自動車の進行線(スラストライン)すなわち自動車の進行方向と、自動車の中心線とのズレを表します。
スラスト角 は、別名をスラストライン偏差角 、ジオメトリカル・ドライブ・アクシス などと言うこともあります。
スラスト角の狂いには後輪の左右個別のトーのアンバランス(スラストラインそのもののずれ)とフロントメンバーの横ずれ(測定の基準線のずれ)などが考えられます。
セットバック
左右輪の位置のずれを表します。
ホイールアライメントテスタによって表示の方法が異なりますが、左右輪どちらか一方を基準にして、他方の車輪が前に出ているか後ろに下がっているかをプラスマイナスで表します。
ホイールベースの左右差をmmで示す場合と角度を示す場合があります。
セットバックの狂いが大きければ、フレーム歪みも考えられます。
サイドスリップテスターで計測できる広い場所や、試行錯誤が必要になり、素人がいきなりやるにはハードルが高いかもしれません。
しかし最近では車のDIYに挑戦してみる方も増えているようです。
ユーザー車検のサイドスリップ検査でひっかかった場合など、テスター屋さんなどで調整してもらうのが確実ですが、自分でためしてみる場合はジャッキアップの際など安全に注意して行ってください。
トー角が明らかに狂った状態のまま乗っているとステアリングが正確に切れないなどの不具合が出ますので、気づいたら早めに調整するようにしましょう。